支離滅裂へのチキンレース

ワワフラミンゴ 「この島の話」
作・演出:カップソバ*1

@阿佐ヶ谷アートスペースプロット

 いい意味で、と最初に断っておきます。
 こんな中身のない芝居、見たことない。
 中身がないと言っても、作りこまれていないわけじゃなく、高速回転する遠心分離機の中に迷い込んでしまったような60分。そこでは全部がバラバラに空中分解していて、起承転結も序破急も何もなくて、意味ありげなものから意味が弾き飛ばされて、でも実は想像力でどうにか補える最低限のニュアンスだけは残されていて。
 油粘土が湧き出す壁、寝言で鶴だとバレる、ショートカット守り隊、梅干を一日一個支給、佐渡おけさがうるさい、ハンマーの譲り合い、りんごの見分けがつかない、百万円のペンダント…どれもこれも、説明しようとすればするほど言葉が追いつかない。面白かったことを論理的に整理して順序立てて言葉にした瞬間から、もうその「言葉に変換しきれなかった部分」がどんどん蒸発していってしまって、第三者にいくら面白おかしく聞かせたとしても「で、それのどこが面白いの?」って言われてしまうであろう面白さ。
 そんなところも含めて、ベターポーヅに似ている、という噂を前々から耳にはしていたのです。僕の結論から言わせてもらうと、ベタポがなくなったことでポッカリあいた穴を塞ぎきることはできなかったのだけど、安易に真似することさえ至難の業であるがゆえに誰も触れなかったその穴に、もしかしたら雨漏りを防ぐためのガムテープを貼りつけるくらいはできるのかもしれない、という淡い期待を抱くには充分な仕上がりでした。

*1:チラシなどでは「熊の一郎」表記だったのが、なぜか当日パンフレットでは「カップソバ」名義に。たしか前回公演(見れなかった)では「鳥山サチ」だった。毎回名前が変わるみたいですが全部同一人物のようです。