亀は決してアキレスのところまで戻れない

+1(たすいち) 「時間泥棒」
作・演出:目崎剛

王子小劇場

 淡々と積み上がってはあっという間に手早く回収されてゆく伏線、面白くなくはないんだけど若干低空飛行気味な展開に物足りなさを感じ始めた頃、いきなり挟み込まれるザ・しっちゃかめっちゃか。その変わり様たるや、間違って別の台本が紛れ込んだのかと疑うほどの変貌なんですが、それが序盤のぎくしゃくした物語の歯車に吹き付けられたKURE5-56のごとき特効薬と化して全体のトーンを一気に引き締め、加速を始めます。何かに踊らされていたような演者たちが自力で踊り始めた瞬間(簡単にいうと「しっくりきた」瞬間)、というものが、ここまではっきり見えたことはそうそうないよ。そこから先が雪崩のように面白くて目をみはる。しかも、物語の整合性を「細かいことはいいじゃないか」とばかりに蹴散らした後でなお、良質な青春ミステリーとして幕を下ろす手際よ。