受難ディナー2

 雨が降っていたので早々と帰宅。こんな空模様の下、夕食の買い出しに出歩くのはイヤだ、というワガママと、食費が余っていたこともあり、宅配ピザを頼むことにしまして待つこと十数分。
 近づいてくるサイレンの音。ものすごく近い。
 何事かと思ってドアを開けると、家の前の道路に消防車が数台止まっていました。どうやら、かなり近くで火事があったらしいのです。とはいえ、雨だし夜だし、火の手はまったく見えません。ただ、家の前の道路が一時的に車両通行止めになっている。
 これは気まずいな。ご近所に対してもピザ屋に対しても。
 まあ、そこからさらに30分後、ピザは無事到着したんですが、まだ消火作業が行われているらしいその道路の隙間を縫うようにして到着したピザ屋の店員と玄関先でお互いなぜか謝罪しあう。「すいません遅くなりまして」「すいません大変なところへ」「いや、こちらこそすいません」「いやいや、こっちのほうが逆にすいません」
 ああ日本人のコミュニケーション。
 それにしてもあの店員さんは素晴らしかった。心配と罪悪感と野次馬根性が混ざり合った複雑な気分で玄関に立っていた僕は一部始終を見ていたんですが、通行止め直前の横路地に少し入ったところでバイクを停め、なんの迷いもなく一直線に我が家を目指して猛ダッシュ。誰がどう見ても非常時な外の風景には目もくれず、ただただ笑顔でピザを届ける。
 「それでは五千円のお預かり、あ、百円玉とかあったりします?」
 いいから! この際そんな釣り銭をめぐる緻密な攻防戦はいいから!