ゆがんだエール

オカ・マ

オカ・マ

 浅野のことはあまりよくわからない。
 面識がないわけじゃない。三年間の高校生活を共に過ごした仲間だし、僕の思い違いじゃなければ、たぶん、親友だった。でも、にもかかわらず、僕は浅野残月という男について何もわかっちゃいない。そういう男なのだ浅野は。シッポをつかませない男なのだ浅野は。あるいは、つかんだシッポの感触が異様すぎて思わず手を放してしまうような、そんなシッポなのだ浅野は。あと、これは僕だけの秘密にしておこうか迷ったんだけど、彼の本名は浅野残月じゃないのだ。本名はもっと平凡な名字と、もっと珍しい名前のハーモニー。
 ちなみにこの本、どこの本屋に行っても品切れで、仕方なく本人から郵送してもらったのだけど、それは限定500部しか刷ってないからなんだそうです。一瞬ベストセラーなのかと錯覚できる粋なはからい。
 そうそう、郵送といえば封筒に書かれた僕の宛名。辻本の辻の字の「十」のところが「牛」みたいな字になっていた。
 親友の名前を今さら間違える男。まだまだ浅野は底が知れない。