笑ってるうちは負けじゃない

 通し稽古を見る。見ているあいだじゅう、なにか小声でブツブツと呟いている自分に気付く。呟きの内容は大きく分けて3種類、「大丈夫かな」「どうすりゃいいんだ」「うわーそういうことかー」。試行錯誤をノートに走り書きしすぎて肝心の打ち合わせ時に読めなくなっている。
 あれとこれとができれば完璧、というラインが存在しない(だっていつも扱う素材が違う)小道具道のイバラっぷりは以前から痛感してきたものの、毎回『これができたんだから、もう大抵のことは乗り越えられるだろう』のラインだけが律儀に更新されていくのはどういうカラクリになってるのか。イバラの道どころか、イバラの茂みに裸で飛び込む覚悟を決める。
 『絶対に無理』ならいいのです、それは正直にそう言えば済む話だから。『明らかに面白くない』でもいいのです、それも一言忠告すれば済む話だから。困ったことに蛍細工の演出は『できなくはないけど大変そう』と『きちっと決まれば面白そう』を危ういバランスで絶妙に両立させてくる。そんなもん天秤にかけられちゃ、『面白そう』が勝つに決まってるだろうと。ああ、だから稽古帰りに「死なないでください」とか変な心配されてしまうのか。
 どうも逆境に立たされると涙のかわりに笑いがこみあげてくる体質になってきたようです。無茶な発注を断れないのは度胸とか体面ではなく、この性格が原因なのではないかと、今更うっすら感づきはじめました。