火の鳥・地獄変

犬と串 「CASSIS」
作・演出:モラル

早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ

 チケットがチョコレートだから溶けるとか、劇場内が常夏みたいな気温だとか、照明が死ぬほど格好いいとか、そういうのもひっくるめてまず何が面白いって『作・演出:モラル』ってことはないだろうという一点に集約されるでしょう。そもそも本当にモラルのある人はこんな脚本書かないだろうし。それでも仕方がないなと思わせるのは、それが「モラルのある人」が書いたのではなく「モラルという名前のインモラルな人」が書いたのだという事実。それは僕が「直樹なのに背骨曲がってる」のと同じくらい仕方がない。
 観る者を不安にさせるほどの白々しさ全開メルヘンで幕を開けるため観る者は不安になりますが、やがてその嘘々したメルヘンが内側から食い破られて崩れてゆくさまは素晴らしいと思います。コントテイストを維持したまま悲惨なことが起きて「笑える」と「笑えない」の基準そのものがひっくり返り、パンは捨てるわケーキは潰すわ堆肥は撒くわと破壊の嵐に泣き笑いで立ち尽くす。おそらく、おそらくですけど、戦争も世直し一揆西成暴動も知らない子供たちであるところの僕らにとって、唯一リアルな破滅の感触がこれだったのだと思うのです。
 「学生劇団」って単語が蔑称みたいに使われるとき必ず引き合いに出される「若さゆえの…」的なものをすべて攻撃エネルギーに転化した、傑作の予感。