心臓えぐりのバズウカ

キリンバズウカ 「スメル」
脚本・演出:登米裕一

王子小劇場

 東京に来て早6年が経ちましたが、その間で同じ芝居を2回見に行ったのは今日で三度目です(関西にいたころを含めても生涯五度目くらい)。少年王者舘、味わい堂々、そしてキリンバズウカ。
 比喩的誇張抜きで「死ぬほど面白かった」と断言してやまないムネモパークでさえ一度しか見ていない僕なので、余程の余波か余韻を残してくれないと二度は行かないもんですが、それにしても最近ひとの作品に衝撃を受ける頻度は間違いなく上がってきており、演劇なんかなくても生活に何の支障もなかったあの頃にはもう戻れないのかな、と、それが良い事か悪い事かさえ解らないままに、ただ思う。その思いが本作のテーマと絡まりあって、勇気づけられながら突き飛ばされたり、気を引き締めながら胃を痛めたり、ああ忙しい。
 二度目の観劇でようやく気付いたんですが、あの永住禁止条例って設定は「よくできたフィクション」じゃなくて「上京者の自分内ルールが具体化したもの」だったんですね。そう考えればあれが『法律』ではなく『条例』だってことも、しかも実際にはだるだるの『ザル法』だってことも、デモ行進のモチベーションの身も凍るような無意味さ加減も、すべて納得がいく。
 自分は自分の意志でここにいるように見えて、実は誰かに許されてここにいる、という自覚。そんな無条件の「許し」にどう乗っかっていくのか、どこまで突っぱねて、どこまで甘えるのか。バランスを少し間違えるだけで、どんな泥沼にでもフラフラはまりこめてしまう恐怖を知る。