手紙を読むくだり

ポップンマッシュルームチキン野郎 「死なない男は棺桶で二度寝する」
作・演出:吹原幸太

@中野劇場MOMO

 笑いありスリルあり涙あり、だとか、そんな生ぬるいもんじゃなかった。劇団名、公演タイトル、舞台上の「ある人物」、開演前にすっかり笑う準備の整った客席の期待と予想を、見たこともないステップで華麗に裏切り続ける90分。脇腹くすぐられて笑ったところを喉元にナイフ突きつけられたかと思えば壮絶な半生を聞かされるかのような、新手の説教強盗みたい。
 早くも開演前アナウンスの時点でスピード感とテンションはピークを迎えますが、失速してゆくかと見せかけて全く違う方向へギアが入ってゆくのです。ナンセンス芝居であり人情喜劇でありサイコホラーであると同時に、そのどれでもない。「これは笑える話だから笑いどころだけ追ってればいいや」とかいった安全圏に逃げ込むことを許さない展開に、めちゃくちゃ不安定なまま置き去りにされる精神状態。そんな中、つり橋効果の要領で両側から挟み撃ちで迫り来る恐怖と感動。どうみても薄っぺらい設定の上に重量感たっぷりの物語がどっさり山盛りになっていて、満腹。