誤情報

 つい先日バイトを変えたんですが、仕事中、不意に上司に言われた一言。
「そういえば辻本くん、相当すさまじい底辺生活してるらしいって聞いたけど」
 誰から聞いたんだ。いったいどこからそんな話が。だいたいまだ勤務2日目だ、噂になるにしても早すぎる。
 決して裕福とは言いませんが、風呂もトイレもついてるし、一応テレビもエアコンもある家に住んでます。いや、そういう問題じゃなくて、自分の生活環境なんて、この新しい職場ではまだ話したことさえないのに。
 今のところ思い当たる節は一つだけ。履歴書に志望動機として「生活(費の捻出)のため」と書いたのが「生活が破綻して死にかけている」という解釈で伝わった可能性。ああ、だからあんなにすんなり採用されたのか。
 まあ、そのせいかどうかはいざ知らず非常に好待遇な仕事なので、あえてこの誤解を解く必要もないかなと思ったんですが、ふと目をあわせたその上司の、やさしさと呼ぶにはあまりにも捨て猫を見るような視線。
「クッキーあげる」
「…はい」
 どうした? 泣いてんのか、俺?