手ぶら恐怖症

 今回の小道具は厄介な大物なんですが、そのかわり作らなきゃならない物量は少なく、いつもみたいに何度も何度も自宅と職場とハンズと稽古場を行ったり来たりしなくてもいいのは助かるものの、どうも荷物を手にしてないと不安になる。いつもなら小道具製作期間中は相次ぐ素材の買い出しで連日大荷物のはずなので。
 しかし、理由はそれだけじゃないのです。なにせ僕はこの前の休日、服を買いに出かけたのに帰りの電車の中へ買った服を一式忘れてくるという、かの有名な『有意義な一日だいなし事件』の体験者、どこに何を忘れているやら知れたもんじゃない。この一件で僕は自分への信用をずいぶん失いました。ふとした拍子に自分が手に何も持っていないのを意識すると、まずは軽く背筋が凍りつきます。つぎに、「そうだ今日はどこにも寄ってないし何も買ってないから何も持ってなくて当然だ」と気づきます。あきらかに順序がサカサマです。いかに普段ひとりで歩いているときタマシイが抜けているかがよくわかるエピソード。
 ところが僕の場合、まだその先があって、どうやら自分の中に住んでいるらしい『用心深いもうひとりの僕』が言うのです、「本当に?」と。そりゃあ打ち合わせの際や本番中などは『用心深いもうひとりの僕』のおかげでトラブルを回避したこともあり、その点では感謝もしていますが、手ぶらのときのコイツは用心深すぎて腹が立つ。
「本当は買い物したこと自体忘れてるんじゃないか」
「傘は?」
「朝から晴れてたけど、傘は?」
 かもしれない運転のしすぎでエンジンすらかけられないタイプですね僕は。ゴールドペーパー免許*1? 持ってますよ勿論。



 そして僕がこんな長文を書くときは決まって小道具作りが煮詰まっている証拠。

*1:運転席に座らないことで結果的に無事故・無違反を達成するというトンチを利かせた者に贈られる特殊免許。「車に乗れなくても仕方ない」ことが国から正式に認可される。