センチメンタル田園劇/隣の芝生は紺碧

野鳩 「アイム・ノット・イン・ラブ」
作・演出:水谷圭一

@ウエストエンドスタジオ

 新境地、なのでしょうか。それともこれが本気の野鳩なのか。過去に一度しか見てない僕にはどちらとも判断つきませんが、ともかく笑う心積もりしかしないで見に行ったらホロリとやられること請け合い。牛がいなけりゃ感極まって泣いちまうところでした。牛のおかげでぎりぎりハンカチ用意せずに済みました。ありがとう牛。
 それにしても。
 野鳩の芝居に登場する小道具がチープなのは、たとえばそれが『牛』としてチープなのであって『牛を模した小道具』としては全くチープなんかじゃなく、むしろ作品と一体化して恐ろしいくらい『牛』にしか見えない、使っている素材が何なのかなんて事が意識にのぼらない、という点でリアルすぎる。言ってる意味、伝わってますか? ああ、もどかしい。
 どんな職業でもそうだと思うんですが、同業者には「自分もいつかあんなふうにと思えるライバル」と「どうやったって追いつけそうにもない雲の上のライバル」の2タイプがいるわけで、それでいくと僕にとって中島さんの作る小道具は圧倒的後者なのです。でも、これは敗北宣言なんかでは全然なくて。むしろ目標には目標らしく常に二、三周回先を走っててもらいたいと思う。それでこそ追いかけ甲斐があるというもんですから。