つまりは気の持ちよう

スロウライダー 「Adam:ski」
作・演出:山中隆次郎

三鷹市芸術文化センター・星のホール

 屋敷の中を飛び回る大量の蛾も、渦中の『先生』の姿も、本当に怖いものはいつも見えない。見えるもの(見えないものにマイムで怯える人たち)だけならコミカルなのに、観る側の想像力に比例して倍増する怖さ。
 たいていホラーなんてものは不意打ちでくるから怖いんですが、スロウライダーのそれはまさしくスロウで(でも確実に)襲ってくる。先の展開がある程度読めても、最後に明かされる『ある事実』にかなり前から気付いたとしても、そんなのは恐怖を克服する何の役にも立たない。
 たとえばこれは乱歩の小説によく出るアレだけど、壁の覗き穴から首を出したら抜けなくなって、しかもそこは大時計の文字盤の4のあたりで、上を向くと分針が2のあたりまで来てる、というやつに似てる。あと10分は無事だからって、怖くないと言い張れるわけがない。
 これはそういう類のホラーです。加えて、演劇でやるからこその怖さ、演技と本気の隙間に潜む怖さもあって、劇場からの帰り、駅まで徒歩15分の一人夜道が物凄く心細く感じる。