和室世界大戦

錦鯉タッタ 「『死の棘』から遠く離れて、それでもまだ、蚊帳を吊っている。」
構成・演出:山田零

新小岩劇場

 『死の棘』といえば、あんまり小説を読まないのに文学部に入り、ほとんど小説を読まないまま卒業した僕が唯一、いやさすがに唯一ではないけど今は文脈のスムーズな進行上うそをつきます、唯一、三度以上読み返した文学作品です。夫婦の、家族の、できれば見ないで済むに越した事はない部分だけを純粋抽出したようなこの作品を下敷にした芝居を見にいくのと同じ日に、遠く故郷の地では同級生が結婚式を挙げているという、決して仕組んだわけじゃないけど何となく後ろめたい偶然を許してほしい。ご結婚おめでとうございます。
 そこで起きたことを簡潔にまとめようとすればタイトルを復唱するだけで済んでしまうのですが、原典『死の棘』を踏まえつつ、舞台が回り、水が跳ね、窓が開き、蝶が舞い、戦闘機が軋みながら落ち、電気グルーヴが流れ、懐メロを口ずさみ(唄ってる人の迷いのない目線、素晴らしかった)、こんにゃくを投げながら、それでもロープを放さずに蚊が飛びはじめて幕が降りる(まさしく)。散らかってるのにブレてないし、支離滅裂なのに分かりやすい、そんなバランスが印象的。
 ただ、すでに原典を知ってる僕にしてみれば大筋を追いながら違いを楽しむ余裕もありこそすれ、逆に言えばそういう見方しかできないわけです。だから、これが『死の棘』初見という人の目にはきっと全く違う世界が映っていたはずで、それこそが本当の『贋作・死の棘』だったんじゃないのか、とか。今となっては絶対に立てないその視点が、ほんのちょっとだけ羨ましくも思う。