このひとなにゆってんの

Boy’s Surface (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

Boy’s Surface (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

 たとえるなら、夜更かししてテレビを見ていた小学2年生が偶然チャンネルを合わせてしまったNHK教育「高校数学」再放送のように。まだ九九もおぼつかない頭にいきなり虚数の概念を叩き込まれたように。

 僕は、無限次元レフラー空間内で、
「無限に分岐、連鎖して生成され続けるレフラー球を覗き込み続け」、
「文字列を以て現状の報告を行うように見える文字列を生成するモルフィズム」だ。
 何を言っているのかよくわからないと思う。
 正直なところ、僕にもよくわからない。

(本文37ページより引用)

 電車の中でこの本を読んでいた僕がふと興味をもったのは、電車の中で僕が読んでいるこの本を横から覗きこんだ人の目に、この本がどのように映るのかってことです。数学か物理学の高度な学術論文に見えるんじゃないか。だとしたらそれを笑みを浮かべて読み進める僕は理系の研究者か何かに見えるんじゃないか。しかし実際には文系の人間が支離滅裂な小説を読んで「全然わかんねえ、あっはっは」と失笑しながらページをめくっているに過ぎないのですが、その錯覚作用こそがこの本の真価ではないかとも思う。言ってることが難解すぎて結局なにも言ってないに等しく、しかも「結局なにも言ってない」ことを説明するためにまた難解な文章が続く。あえて「わからせない」ように書かれているんだと信じて読み進める一方で、「わからないのは自分に学がないせいではないか」との不安がつきまとう。本当にバカなのは読者か作者か作品なのか、手に汗握る腹の探り合い。