麻酔の効きすぎた無菌室

キリンバズウカ 「飛ぶ痛み」
作・演出:登米裕一

王子小劇場

 『他人の痛みがわかる大人になりなさい』と、かつて僕にアドバイスをくれたすべての人に見せたい演劇。その言葉をどんな気持ちで言っていたのか、これを見たあなたがたがどのような顔をするのか、何を思うのか、救われるのか打ちのめされるのか、僕はそれが知りたい。そのデータを採りたい。われながらドスグロい願望なのは重々承知の上で。
 無痛から苦痛へ、苦痛から無痛へ。王子小劇場の空中に撒き散らかされた「痛み」は、ガラスの破片のように一気に客席に「飛んで」くる。鋭利すぎる刃物傷がすぐには痛くならないのと同じように、笑って見てる僕らはいつの間にやらズタズタに。淡色ばかりの小綺麗なセットにべたべた貼りつく血糊の嘘っぽい汚さが逆に引き立たせる生々しさ。
 アフタートーク。関西人としての関東でのコミュニケーションの不自由さとか、「痛みと気遣い」や「上層部」に関する登米さんの感覚が自分のと妙に似ていて、ものすごくスンナリ理解できる。NASA厚生労働省の説得力の違い考察には参りました。
 それにしても緒方晋さんだ。あんな関西人っぽい関西人は関西でも滅多に見られるもんじゃない。あの人こそ『関西の秘密兵器』なんじゃないのか、と、少し思った。