第四の表面張力

タイタニックゴジラ 「もうなにもしたくない」
構成・演出:高木健

@早稲田どらま館

 朝から夜まで5日連続、合計47時間、舞台上に軟禁されつづけてナーバスになっている役者を好きな時間に行って好きなだけ眺めて帰る(入退場自由・無料)という、出演者および関係者の誰にもメリットがない拷問のような企画。僕は用事があってやむなく11:30〜12:30の間しか見ずに退散したものの、のべ47時間舞台上から抜け出せない役者に比べれば観客側には圧倒的なアドバンテージがあるわけで、劇場を出る瞬間に後ろから卑怯者と罵られた、ような気がした。入退場自由だなんて書いてあるけど本当は、退場することは見殺しにすることと一緒なんじゃないか、とか、それこそ単なる綺麗事じゃないか、とか。
 役者が台本どころか満足な役柄も与えられてない状態で「自分じゃない何かを演じてやり過ごす」ことさえ許されず、むしろ芝居中の出来事とはいえ事実として「何かを演ってしまった」という消せない烙印から逃れる方法を、これはフィクションだ、という証明を、フィクションが終わるまでに自力でやらなきゃならない。映像ブースという安全圏からわかりやすい絶望ばかり投げつけてくる演出家に、役者は自分の言葉で嘘臭くない希望を打ち返さなきゃならない。そうしないと死んでしまうから。
 とかなんとか冷静な分析めいたことでも書かなけりゃ、観てきた僕自身フィクションに圧し潰されそうになるのです。舞台上で起きてる事が事だけに「面白い」だの「良かった」だの「興味深い」だのといった不謹慎な言葉は封印されているし、「実験的な…」とか「身体性が…」とか「ポスト・リアリズムの…」とかいった便利な、据わりのいい、それを使っただけで何かちょっと頭のいいことを論じたような気分になれる言葉も、この作品には全く似つかわしくない。
 これを書いている現在時刻は13:30。解放まで残り約6時間、死者が出ないことだけを祈っています。たかだか一時間やそこらで尻尾巻いて逃げ出した卑怯者の僕にできることはそれくらいです。