鬱血狂時代

宇宙マナー×早稲田大学演劇倶楽部 「いつか床が見える伝説」
作・演出:萩野あやこ

早稲田大学学生会館B203

 同じく床が見えない部屋に棲む僕にとって、このタイトルの蠱惑的な響きにはすぐピンときたし、チラシの文章をさわりだけ読んだ時点で勝算(きっと見たいものが見られるという勝算)はあった。

あの日とろけたキュウリ、傷めつけた牛乳、腐らせた大根。
かつて米と呼ばれていたもの。玄関で追い返した友人。
部屋を見るなりUターンで実家に帰った母親。
あの梅雨、あの湿り気。
あの犬、あの川、あの弁当、あのアボカド、あの手紙、あの神社、あのスカート、
あの月、あのネックレス、あの故郷、あのサイト、あのメール、あの約束!

 片付けられないのは、部屋だけじゃなかった。
 ひたすら卑屈に卑屈にスパイラルしてゆく自意識が限界を超えて爆縮するとき、床じゃない場所から迫り来るカタストロフとカタルシス。負けすぎて逆に勝つ、という兵法の極意。内輪メタとでも呼べそうな現在地確認。
 男女ともに一人ずつ、あと野菜にも一本ずつ、ただれた内面担当としての表現が恐ろしく巧い役者がいた。巧い、っていうと技術的なものと思われがちなんだけど、見ているうちに嫌悪感と親近感が同じ量だけ湧いてきて、それはつまり僕自身のただれた内面をえぐり取られたってことなんだと思うのです。
 萩野さんとはいつか自虐対決がしたい。