ヒとミとコとリとイとシのアとム

少年王者舘ガラパゴス
作・演出:天野天街

@下北沢ザ・スズナリ

 まず最初に大事なことを言っておくと、ガラパゴスとは少年王者舘そのものを表した言葉だ、ということ。これは決して回りくどい比喩なんかではなく見たまんまの事実。ほかでは見たこともない珍しい生態系が跳梁跋扈し、想像を絶する美しい群舞があり、聞いたこともない懐かしい言語感覚が飛び交い、理屈も批評も圧倒的な「体験」の前に掻き消されてゆく。それに加えて、今回はいつになくポップな仕上がりだった。

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POST NO WAR

COCOON

COCOON

 サイレント叙情漫画『センネン画報』の甘酸っぱさにばかり気を取られていると、この本は正直言って目を背けたくなる人もいるのかもしれません。鉛筆デッサン風のあのタッチはそのままですが、しかし、その筆先からこぼれ落ちるのはどろどろに熔けた熱くて重い有毒の鉛。その温度と質量を忘れずに、「少女」と「戦争」というキーワードから安易に引きずられてしまいがちなイメージに抵抗しつづけた作品。むしろ描写のレベルとしては『カムイ伝』正助編に近いくらい。
 作者と(たぶん)同い年の僕には、どう足掻いても「取材」とか「資料からの引用」以上の体験としても感情移入としても戦争を語ることはできなくて、下手に触れようとすると偽善か不謹慎のどちらかに体よく収まってしまう恐ろしさがよくわかる。だから耽美と陰惨をとても慎重に秤にかけながら「知らない」事実について中立に徹しようとする描線は、どうしようもなく美しくてどうしようもなく醜い景色をそのまま書き写す。簡単に言葉にしちゃいけないからこそ漫画にしたのだ、とも思うのです。
 「白い影ぼうし」が最終章には一つも出てこないことが、気づかない人は気づかない程そっとした静かな衝撃として残る読後感。